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『雪』  千差万別のいいっぱなし物語 ~語られなかった物語 2  [創作]

これは、友人のブログから頂いた文章をイメージで膨らませたものです。

以下、友人の許可を得てその文を転写させて頂きます。

  
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雪がどうしてあんなにもハッとする白さを放つのかを、ようやく彼は思い知り、歯と体を震わせたまま、あふれ出る涙を止める事ができませんでした。
  
以前別のブログで気まぐれでやっていたものです。

一行だけ描写をし、残りの前後は読み手にすべて補完してもらう千差万別のいいっぱなし物語。

なので一行の中にどれだけの情報量を詰め込めるか、どれだけ空気や温度を持たせられるかの挑戦でもありますねw

皆さんはどんな物語を読み解けましたか。



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さて、ここからひとつの物語が生まれました。



『雪』


水の中をもがくように、男は凍った森の中を走っていた。
時折足をとられ倒れこむたびに、怯えたように後ろを振り返る。
「何が悪いっ!」
男はなんども繰り返してきた言葉を、絶望的に胸の中で叫んだ。
「母親が自分を捨てたのも、親父が飲んだくれのろくでなしなのも、オレの所為じゃない!
金持ちのところから食う分の金をとるくらいあたりまえじゃないか!
オレはずっとそうやって生きてきた。
そうしないと生きていけなかった。」

男は宿に入った金持ちそうな旅人を狙って、金品を盗んでは生活していた。
「今日は運が悪かった・・。」
誰もいないはずの部屋に、母子連れがいた。
部屋を間違えたと気づいた時には、母親が悲鳴をわめき散らし始めた。
「黙らせるためには仕方なかったんだ・・。」
男は持っていたナイフで母親の喉元を切り裂いた。
噴出した血をまき散らしながら、母親は男の側に倒れ込む。
男は全身その血にまみれて、小刻みに震えた。
騒ぎを聞きつけた人々が集まって来るのを感じて、男は窓から森めがけて逃走した。

時折強く吹き付ける雪は、視界を遮り方向感覚を狂わせる。
唐突に目の前に広がったのは、最初に迂回したはずの凍った沼のほとりだった。

「いたぞっ!」
「こっちだっ!」
怒声が飛び交う。
踵を返す間もなく、屈強の男たちに取り押さえられ、男は積もった雪の地面に押しつけられる。
眼の前に細い足首が立つ。
殴られ、血と泥土に汚れ、かすんだ眼を上げると、
彼が殺した母親の子供が憎しみのこもった眼で睨んでいた。
「こいつだっ!母ちゃんを殺したやつだ!母ちゃんをかえせっ!もとにもどせっ!」
男は口をゆがめて、折れた歯を吐き出した。
「ふざけるなっ!騒がなけりゃよかったんだよ。オレが悪いんじゃない。
大人しく金を出していれば死なないですんだのによっ!馬鹿な母ちゃんだぜっ!」
男はこわばった顔をゆがめてからからと笑った。
抑えていた男が思いっきり蹴飛ばして男を黙らせる。
そして両脇を乱暴に抱えると、ひきずるように立ち上がらせた。

男は不意に背中に熱さを感じた。
腫れあがった顔を反らせて背中を覗きこむと、そこからナイフが生えていた。
子供が落ちていた男自身のナイフで身体ごとぶつかって来たのだと気づいた時は
すでに足から力が抜けていった。
「馬鹿・・やろ・・う・・。」
両脇の男たちの手が離れる。
子供は真っ青な顔のまま
「死ねっ、死んじまえっ、お前なんか死んじまえっ」と口の中で呟くように繰り返している。
いつの間にか取り巻いて見ていた人々の間から、
年配の女性がその少年を抱きとめて連れてゆく。

誰も何も言わない。
ただ見下ろして、男が死ぬのを待っている。

男の眼に、冬枯れた沼に薄く積もった雪の白さが映った。

唐突に、幼い頃どこで拾い集めてきたのか解らない寄せ集めの廃材で
何日もかけて父親が作った、とてもソリには見えないソリが想い浮かんだ。
最初で最後の親からもらったものではあった。
不細工なソリは父親と幼い少年の乗せて、雪の斜面を勢いよく滑り落ち、
その勢いのまま、凍った小さな池を素晴らしいスピードで滑走したものだった。
幼い少年は夢中になった。
まるで空を飛んでいるように自由だった。
父親の背中は大きく、なんと頼もしく見えただろう。
少年は大はしゃぎで歓声をあげた。
まだ若かった父親がそんな少年を見て、満足そうに笑っていた。
まだ若かった母親がそんな二人を見て、聖母のような微笑みを浮かべて見ている。

伸ばした指先の遥か先に、沼の上を渡る大きな鳥が二羽、重い雪をついて飛んでいる。
強くなってきた雪にその姿はおぼろだ。

男の眼から、涙がこぼれた。
どこで間違ったんだろう。
なにがいけなかったんだろう。

おびただしい出血が雪を赤く染め抜いてゆく。
温かかった体から離れてゆく血は徐々に冷え、
その上にもただ雪は降り積もる。
そして痛みも哀しみも後悔も、罪も穢れも覆い隠してゆく。

突然、耳元で叫ばれたように男は気づかされる。
この空から降る雪は、彫像のように立ち並ぶ群衆の上にも、沼の上にも、鳥の上にも
そして自分にも公平に降っているんだ。
なんでそんな事に気づかなかったんだろう。
オレもまた、ここの風景のひとつだったんだ。
何もない無垢の白から生まれ出た、鮮やかな命のひとつだったのか。
オレも、親父も、母親も、殺した女も、オレを憎んでいるこいつらも。

ああ・・色が消えてゆく。
オレは生まれる前にかえってゆくのか。
待ってくれ。
もうすこし・・オレは・・オレは・・まだ・・。

雪がどうしてあんなにもハッとする白さを放つのかを、ようやく男は思い知り、
歯と体を震わせたまま、あふれ出る涙を止める事ができなかった。

男のかすんだ眼に、自分を覗き込む幼い少女がうつった。
「おじさん、痛い?」
小さな手が頬に触れるのを感じる。
男はかすかに瞬きをした。
涙が少女の手にかかる。
「かみさまが、痛くなく して下さいますように。」
少女が良く通る声で歌うように言う。

ああ、もう一度やり直させてくれ。
あの時の夢中でしがみついた親父の背中から
もういちど・・。

声にならない声で男は叫んだ。
少女の切りそろえた前髪の下の大きな瞳が
男の最期の景色となる。


やがて取り囲んだ人々は、ひとり、またひとりと去っていった。


雪はただ降り続ける。

ひとりの人間の僅かな歴史などにはお構いなく、まるで何事もなかったかのように。
それは慈悲のようでもあり、冷酷な支配者のようでもあった。


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takehiko

元の文と文体が異なるため、一部変えさせていただきました。
申し訳ありません。
by takehiko (2011-11-10 00:36) 

LAYLY

今日はまた寒いですね。お風邪などひいていませんか^^

これはまた違ったお話になりましたね^^

この男の行いは決して許されることではありませんが、、、、

どこでどう間違っちゃったのでしょうね。
この男の父親も母親も同じことを思っていたのかもしれません。
基本的に人のせいにするのは嫌いですが、一生懸命やっているのに自分ではどうしようもできないこと、世の中にはたくさんありますからね…。

子供をちゃんと育て上げるという、親の役目の大切さを考えさせられました。家族が間違った方向に行かないよう、日々頑張っていますが、この先ずっと大丈夫だという保証はないですし、いつ道を踏み外すかわからないですね。そしてそれは誰にでも言えることだと思います。

被害者の少年の立場だったら、こんなこと言ってられないですけど(-_-;)

最後に出てきた少女は『御子』だったのでしょうか?

雪が全てを浄化して、何もなかったことにして、またゼロから始められるといいのに…(>_<)

わーだんだん何言ってるのか分からなくなってきましたー(^-^;
by LAYLY (2014-12-02 15:51) 

takehiko

>LAYLYさま

心楽しいお話じゃなくて申し訳ありません。
こちらに書く前に書いていたものは、大体こういう殺伐としたものでした。

人には人であるための環境と、日々の糧を得るお金と
頑強な体と、誰かの愛と、そしていくつかの幸運も必要だと思います。
すべて与えられる事の出来た親を持つ事も、幸運のひとつでしょうか。
それでも正しく真っ直ぐに生きてゆく事が出来れば
一番幸せなのは、まさにその本人なのかもしれません。

本当はこれはリヴリーのノドくんの物語の一部になるものでしたが
この男の気持ちと重ねて書いてゆく内に、
途中で自分の心の方が参ってしまいましたw
気力と腕が持てたらば、いつかまた
彼にも救いが訪れる話しを書いてみたいです。
by takehiko (2014-12-02 18:15) 

LAYLY

確かに楽しいお話ではないですけど(正直でごめんなさいw)、嫌いではないですよ^^
(こんなこと言ってるとまた変わり者と言われてしまうかな^^;)

以前にも書きましたが、芸術家と呼ばれる人達は、特別な何かを感じ取って、それを伝えるために作品に託す、と思うのです。音楽でも映画でも良い作品は心に余韻が残りますよね。こちらのお話は何か心にずーんとくるものがありました。なので読んだあとも、色々考えさせられました。

しかし、このお話は伝わってくるものが強ければ強いほど、書き手側さんの心が参ってしまうでしょうね^^;私の書き込みによって書いた時の気持ちを掘り起こしてしまったかな、と心配しております…(◎_◎;)どうかさらりと受け流して下さいませw

この男に救いが訪れる話ですか!是非とも拝読したいですねw
『野宿の夜に』のスピンオフもw
・・・ついでに“絵”も。。。ww

拝読&拝見できる日を無期限で気長~に待っておりますですよ(#^.^#)

by LAYLY (2014-12-03 11:36) 

takehiko

>LAYLYさま

身に余るお言葉、痛みいります。
芸術家のハシクレにもなれない哀しさです。
もっと書く力を~~っ!!
by takehiko (2014-12-04 23:14) 

LAYLY

大丈夫大丈夫!(^^)!腕はあるんですから!私が保証しますよ~(#^.^#)



2本くらい…。

by LAYLY (2014-12-05 16:50) 

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