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リヴリー小説 短編 『これが 僕』  [創作]

僕はみんなとは違う。
みんなのような美しい毛並みも
優しい声もでない。

僕は醜いから、一緒に笑い合う友達も
一緒に暮らす家族もいない。

僕は小さく小さくなって
暗い葉っぱの陰のほんの隙間から、元気に跳びまわるものたちを
毎日毎日そっと覗いて見ているだけ。
だってもし見つかったりしたら、きっと怖がられるか
ひどくいじめられてしまう。
僕のおとうさんが言ったんだもの。
「お前は醜い出来そこないだから、誰にも愛されない。
恥ずかしいからお前は外に出てはいけない。」って。

そのおとうさんも、もうお家に帰ってこなくなった。

僕はひとりぼっち。

仕方ないさ、僕は醜いできそこないなんだもの。

でもひとりぼっちは淋しくて、僕はこっそり外に出たんだ。
そしたらそこで見つけたんだ。

草原を元気に跳びまわるふわふわの茶色い生き物を。
眼はお空のような青色でキラキラしていて
走ったり急に停まったり、お空を見上げて、コロンと転がったり
大きな声で歌ったり笑ったり、なんて美しくて楽しい生き物だろう!

見ているだけで、僕は楽しくなったんだ。
僕は毎日昼も夜も、雨の日もお天気の日も
その草原で、この生き物が来るのを草の陰で待ち続けた。


時々その生き物は、彼よりも少し大きいけど
赤いもしゃもしゃした生き物も連れてくる。
この生き物にはぴかぴかしたくちばしがあって、優しい声で話をしていた。
この生き物は、ふたりになるともっと元気に草原を走り回って、
大きな声で笑い合っていた。

今日も僕はこっそりこのふたりから隠れて、様子をみていたんだ。

するとさっきまでいた茶色のほうが見当たらなくなったの。
赤い方がのんびりあちこちを見ながら、いったりきたりしている。
僕はついそーっと頭をのぞかせて、茶色のふわふわを探したんだ。

「やあ!こんにちはっ!」
後ろのすぐ近いところから声をかけられて、僕は飛び上がった。
「僕はイェルクッシェ!元気なトネビだよ!」
「君はいつもここにいるね!いっしょに遊ぼうよ!」
僕は慌てて葉っぱで顔を隠した。
「ごめんね・・ごめんね・・?わざとじゃないんだ。
君たちがあまりに楽しそうで・・。」
僕が後ずさりをしながら逃げようとすると、イェルクッシェくんは首をかしげたんだ。
「どうして謝るんだい?一緒に遊ぶと楽しいよ?」
僕は泣きそうになって叫んだ。
「だめだよ、だめだよ!僕はとっても醜いから、ここから出ちゃダメなんだよ!」
その時草原から赤いもしゃもしゃした方も、そばに来てにこにこして言ったんだ。
「醜い?誰が言ったの?君はとっても素敵じゃないか!」
「僕はノド。ムシチョウだよ。」

ステキ?
こんな優しい声をかけてもらったのも、ステキなんて言われたのも
僕は初めてだったんだ。

あっというまに僕はイェルクッシェくんとノドくんに両方から挟まれて
一緒に走っていたんだ。

キラキラしたお日様の下を、全力で走るってなんて心地いいんだろう!
草原の草がぱしぱしと柔らかくお腹や足に当たって音を立てる。
その度に昨日の雨で、葉っぱにたまったしずくが、
きらきらと虹色に輝いて僕らを包むんだ。
イェルクッシェくんが上を向いてアハハハハ!って笑って
ノドくんがきゃーーっ!って歓声をあげると
むずむずして、僕も力いっぱい声をあげてみた。

きしむような金属音。


僕ははっと口を閉じて立ち止まる。

大変な事をしてしまった・・。
大きな声を出すなんて。
僕はうずくまって目を閉じた。
きっとイェルクッシェくんもノドくんも耳を塞いで言うんだ。
『なんてひどい音だ!お前なんてあっちに行け!』
そう。おとうさんみたいに・・。
折角オトモダチになれたかもしれないのに・・。
台無しにしてしまった・・。

急に僕が停まったせいで、イェルクッシェくんもノドくんもころころと前に転がった。
イェルクッシェくんは転がりながら、そのまましゅたん!と言って立ち上がって
体操の選手のように両手を挙げた。
ノドくんはもごもごと起き上げると、そのイェルクッシェ君を見て
ぱちぱちと手を叩いて目を丸くしていた。
「すごいなぁ!イェルクッシェくんはかっこいいなぁ!」
そしてふたりはにこにこして僕のところに戻ってきたんだ。

「あんなふうにすぐ止まれるなんて、君はすごいねぇ!」
「大きな声出るんだね!とっても大きなオルゴールみたいだね!」
「僕は・・」
僕は顔を上げることも出来ずに言った
「こんなに醜くてひどい声なのに、君たちは友達でいてくれるの?」
ふたりはぽかんとした顔で、顔を見合わせました。
「君はおかしなことを言うねぇ。」
「僕は君が醜いとも思わないし、ひどい声だとも思わないよ?」
ふたりは一緒ににこにこと頷き合いました。

「君は君だよ。」
「そうだよ、君はそのままで君じゃないか。
僕は君の声も姿も素敵だと思うし、好きだよ?
僕らはもう友達だよ!」
今度は僕がぽかんと二人の顔をみつめました。
「僕のままで・・いいの・・?」
ふたりは声を合わせて言いました。
「もっちろんっ!」

これが僕。
つるつるの硬い鎧のようなものに覆われた姿。
鋭い爪のついた長すぎる手足。
おとうさんができそこないと言ったけれど
そうなんだ、これが僕なんだ。
沢山の言葉の刃で切り付けられ、生きて行くことも否定され
誰にも愛されることも、愛することもない。

いや・・。違う。

僕であることを僕が認めてあげなかったんだ。
認めてあげよう。
僕のことを友達と呼んで、僕のままでいいって認めてくれるものがいる。

胸の奥が張り裂けそうになった。
初めて悲しみではなく、溢れだす歓びで。

イェルクッシェくんがぎゅうっと僕を抱きしめた。
ノドくんがその上からぎゅうっとふたりごと抱きしめた。

「あ・・りが・・とう・・。」

やっとひとことそう答えられた。

イェルクッシェくんがあはははははと上を向いて笑った。
ノドくんがうふふふふと笑った。

「僕はぷろとたいぷmしりーず 6号」

「長い名前だねぇ!ぷろとくんだね!よろしくね?」

こうして僕らは出合い、長く長くお友達になったんだ。


今日はそんな僕にとって特別な日。
大切なお友達の生まれた日なんだ。
それと、僕のお誕生日が解らないって言ったら
イェルクッシェくんがぽんと手を叩いて、
じゃあ僕と一緒にしようよ!って言ってくれたんだ。
だから今日は僕とイェルクッシェくんのお祝いをするんだと
ノドくんやふたりのお友達のリヴリーたちが
大騒ぎでお誕生日の用意してくれているんだ。

ホントは内緒だけど、僕はプレゼントや御馳走よりも
イェルクッシェくんやノドくんの笑顔を見ている方が
ずっとずっと幸せな気持ちになるんだ。

最近僕はとても眠くなって、あんまり長く動けなくなってしまったけど
胸の奥深く溢れてくる歓びは
今もずっとずっと続いているんだよ。

僕はもうひとりぼっちじゃない。

イェルクッシェくん、お誕生日おめでとう!
生まれてきてくれてほんとうにありがとう。


どんな時もいつまでも、僕は君たちの友達だからね?



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takehiko

ノド:イェルクッシェくん、お誕生日おめでとう!
武彦さんがプロトくんとのお話を書いてくれたんだ。

僕からもいっぱいのありがとうをプレゼントさせてね?
これからもずっとずっと仲良ししてね?
by takehiko (2018-06-27 00:19) 

siamneko

小説 キタ━━━(≧∇≦)━━━!!!

土曜か日曜に読みに来ますっ!
( ̄ー ̄)ゞ すまんすまん
by siamneko (2018-06-28 22:30) 

takehiko

>siamnekoさま
うおおお。来てくださりありがとうございます。
そんなあらためてきていただけるほどのものでは。。。
すっかりご無沙汰してしまいました。
ようやく日常を取り戻しつつあります。
またよろしくお願いいたします。
by takehiko (2018-06-29 19:04) 

siamneko

ああ、あの子かと、地下飼育室まで見に行ったけど、m-002号だったや。
m-006号は創作なんだ? 爬虫類系かな?

それと、脱字を発見しました。(*'-')ゞ
>暗い葉っぱの陰のほん隙間から、
たぶん、ほん「の」隙間ではないかと。

( ´・ω・`).。oO(…ちがったらごめんね…)
by siamneko (2018-06-29 21:56) 

takehiko

>siamneko さま
いやいや感謝感謝です。
ほんと散々見直したつもりでもちょいちょいのミス・・。
ご指摘助かります。
早速訂正させていただきました。

mシリーズのプロトタイプと設定しました。
城の地下に閉じ込められているm-02くんの
いくつかの実験体のひとつ、という僕の勝手な想像です^^
どうも簡易な燃料で動き、餌は食べなくてもよい、
もっと機械に近いものだったようですが
ココロは宿ってしまったようです。


by takehiko (2018-06-29 23:46) 

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