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小説 短編 『月のよる』 [創作]

今日はノドくんのお友達のおはなしです。


ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ

とても寒くて眼を覚ますと、あたしはひとりぼっちで草の中にいたの。
あたりはオレンジ色で、もうすぐ暗くなる前みたい。
ここはとっても寒いし、お腹もぺこぺこ。
大きな声でおかあさんを呼んでみた。
「おかあさーん。おかあさーん。あたしここよーっ。」

きっと草の中だから、おかあさん 見つけられないんだわ。
あたしはぶるぶる震えながら歩いてゆくと
眼の前にきらきらした川が流れているところにでたの。
そこにおっきな男の人が、体を小さく丸めるようすで膝を抱えて座っていたの。
あたしは動かないその人のところに近付いて聞いてみたの。

「ねえ、ねえ。あたしお腹すいたの。おかあさんどこ?」

男の人はあたしの声を聞くとちょっとびっくりしたみたい。
思ったより若い人で、ズボンのポケットにぎゅうって手を入れたままで
あたしの方をじっと見つめたの。
頬には涙の痕があったわ。
この人も迷子になったのかしら。

「あたしね?お母さん探しているの。みなかった?」

「君もひとりぼっちなのかい?」

男の人はやせっぽちだけど大きな手をようやくポケットから出すと
あたしの体を持ち上げて胸に抱いたの。

「ちょっと、いきなり失礼じゃない?」

あたしは抗議したけど、優しく頭を撫でられると
おかあさんのそばにいるみたいにあったかくて、気持ち良くなっちゃった。

しばらく大人しくしていたら、何だか眠たくなってきちゃったけど、
この人ったら、草のところにまた降ろそうとするのだもの。
爪をたててしがみついたら、男の人のマフラーが
あたしの全部の足の爪にひっかかっちゃって、
それを見た男の人は思わず笑ってしまったみたい。

「ねぇ、おなかすいたの。」
あたしがも一度言うと、男の人はあたしの顔を自分の眼の高さにまで近づけて
「僕の所にくるかい?」と言ったの。
「おなかいっぱいのご飯と、あったかいベッドがあればね?」
あたしが答えると、男の人は宝物を持つみたいにあたしを上着の中に入れて立ちあがったわ。

上着の隙間から見える空にはもうお月さまがでていたけど、
時々覗きこむ男の人の眼は優しくて、あたしと視線が合うとにっこりほほ笑む顔が
おかあさんといっしょにいた時に住んでいたお家の男の子みたいだったわ。



あたしの名前は「よる」。
この人がつけてくれたの。
あったかいタオルも、すこおしあっためてもらったミルクも
この名前も、この人の優しい手も
今はすごくお気に入りよ?

生きている時って、あの草原の中にいる時みたいに何にも見えないけど
突然の出会いで開ける道もあるものね。

今度の下弦の月の夜に
魔法がかけられるのなら
あたしも人間の女の子になってみたいなぁ。
そしたらこの人のあの時の涙の訳も、聞く事が出来るかしら。

あたしのしあわせのオスソワケ、
この人になら分けてあげるのにな。
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takehiko

さて、『よる』さんはノドくんのお友達のひとりですが、
リヴリーではありません。

あなたのイメージの『よる』さんは
何の生きものでしょうか^^
by takehiko (2010-11-05 19:38) 

xephon

イェルクッシェ:ノド君のお友達はいっぱいいるねぇ!今度僕も一緒にあそびたいなぁ!優しいお兄さんと暮らしているのかぁ。
僕もお友達になりたいなぁ!


by xephon (2010-11-07 22:33) 

takehiko

>イェルクッシェくん
遊びに来てくれてありがとう^^

僕のお話は、ノドくんがわくわくと話してくれた事や
興奮して話してくれた事が元になっているのですが
中々落ち着いて順序立ててお話ししてくれないものですから
まだまだ、文に出来ないお話もたくさんあります^^;

どうも『よる』さんにはまだお話があるようですので
今度ノドくんからまた聞かせてもらいたいと思っていますw

楽しいお話だったら良いなぁ^^

by takehiko (2010-11-09 09:35) 

LAYLY

一番最初にさっと読んだ感想は、だ、駄目じゃない!知らない人について行っちゃ@@!!
でした(^-^;
娘のいる身なもので、ついつい…(*^^*)

ほんわかするお話ですね~w
この子は子猫ちゃんでしょうか。

しあわせのオスソワケ、きっとこの人は既にもらっているのでしょうね(^^)
『よる』さんのお話、もっと聞いてみたいです!

by LAYLY (2014-12-26 15:16) 

takehiko

>LAYLYさま

実はこのお話しは、電車の中で話していた女子高生をみて思いつきました。

同じ制服を着たその子たちは、仲良さそうに身を寄せて話をしているのですが
聞くつもりがなくても耳に入ってくる二人のその話は
全然かみ合っていないのです。
つまり会話のキャッチボールがまったくないのに
おたがい違う事を、楽しそうに話しているのです。
なぜこれでコミュニケーションがなりたつのか・・と不思議でした。
その時に、ああ、こういうことなのかな?と考えたのがこのお話でした^^

勿論若いお嬢さんは、
知らない人にこんなに簡単についていってはいけません^^

by takehiko (2014-12-27 16:41) 

LAYLY

電車の中で話していた女子高生をみて思いついたとは…^^;
なるほどー、それで最初に読んだとき、????と思ったのですね。
この女の子?が人間なのか、動物なのか、それともこの世に存在しないものなのか?
非常に悩みました^^;
何回か読み直してやっと、ああ、そういうことね、と納得がいきました^^;

『この人』もちょっと謎な人物ですしね。
夕方川辺にうずくまって(ススキの群生の中ではないのね^-^;)涙を流しているなんて、な、何があったの@@?と聞いてみたいです。

この二人の不思議な関係、今後が気になります。
takehikoさんの作品で、続編を書いて欲しいものがまた一つ増えました(*^^*)

by LAYLY (2014-12-27 18:49) 

LAYLY

連投失礼します。

今晩の月はもしかして下弦の月でしょうか?
by LAYLY (2014-12-28 00:28) 

takehiko

> LAYLYさま

ん?今日から段々お月さまはまあるくなってゆきますから
今日から上弦の月に入ったと思うのですが・・。

by takehiko (2014-12-29 00:22) 

LAYLY

こんな時間に失礼します。

実は上弦の月、下弦の月、まったく知りませんです^^;
昨夜、あまりにも立体的で形が変わった、美しい月でしたので、ネットで調べたところ、下弦の月の映像のところに、同じ形のものが載っていたので、そうなのかと…。

勉強になりました^^

もう一つ伺ってもいいですか?
下弦の月の夜に魔法がかけられるなら、とありましたが、これは…?
そういう言い伝えみたいなものがあるのでしょうか?

お返事は気にしないで…、と言いつつ、申し訳ないですm(__)m

by LAYLY (2014-12-29 02:55) 

takehiko

>LAYLYさま

折角読んで下さったのに、ゆっくりゆっくりのお返事で申し訳ないです。

月の満ち欠けについては、僕よりも
ネットで詳しく解りやすい解説があると思いますので、
どうぞそちらをご参考下さいますよう。
これに限らず、いにしえよりお月さまには美しい呼び名がたくさんあります。
この機会にそちらもぜひ^^

下弦の月の魔法は、僕のオリジナルですw
地上にある生命たちの支配にある満月から
一番離れた新月の所でこっそりと・・・なあんて考えました^^

いずれの話も僕の勝手な絵空事です。
どうぞフィクションとしてお楽しみくださいますよう^^
by takehiko (2014-12-29 19:25) 

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