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リヴリー小説 短編 『たったひとつの願い』 [創作]

葉にたまった朝露が静かな水面に落ちるような、澄んだ水音に僕は目を開いた。
と突然、茶色のもしゃもしゃしたモノの鼻先が僕の鼻に触れた。
僕は叫び声をあげて3Mほど手と足を使って後ずさった。
犬はのっそりとまた僕に近づくと、
片方の口を少し上げると、ふふん、と言うように笑ったように見えた。
「なんだ?どうしたんだ?ここはどこなんだ?」
僕はなるべく犬から目を離さないようにして、周りを見渡した。

大きな河原だった。
きらきらと湖のようなほとんど動かない水が、はるか先の明るい岸まで続いている。
僕は思わず立ち上がり、犬から目を離して水の方へと歩を踏み出した。
が、足に水がつく前にぐいっと身体が後方に倒された。
犬が僕の服をくわえて、引き倒したのだった。

「うわああっ!」僕は慌てて立ち上がると後ろ向きに数十歩走ると、
不意に足元の感覚が失せて僕は悲鳴を上げながら落ちて行った。
 

暗闇の中で僕の名を呼ぶ声がする。
僕は上も下も斜めも横も解らないまま、声の方に向き直ろうとした。
「メグ・・メグッ!」

手を掴まれる感触。
僕はその暖かさにしがみつく。

「あっ!先生!気がつかれました!」

う・・・。
痛い・・。
体中が・・痛い・・。
動かない。

「おかえりなさい・・」
声を眼で追うとメグが涙でくしゃくしゃの顔で微笑んだ。
「覚えてる?事故にあったのよ?
ずっと意識がなかったの。
もう・・駄目かも知れないって・・。」

泣き虫なメグ。
僕たちはずっと一緒だって約束したじゃないか。

「犬が・・。」
「え?なに?」
「犬が戻してくれたのかな・・?」
「犬?」
「ああ・・。
あれは・・メグが昔飼ってた・・。」
「チコ?
・・夢をみてたの?」
大きくなった自分のお腹をそっとなでながらメグは優しく微笑んだ。
「この子が生まれたら、チコの話をいっぱいしてあげなきゃね。」


 「これで良かったのですか?」
天使がチコに静かに話しかけた。
「このクリスマスの夜に
たった一度だけ叶えてあげられる願いだったのですよ?
大好きなメグさんにもう一度会うことだって出来ましたのに。」
チコはぺろりと鼻をなめていった。
「オレは生きてるうちにしたい事はしたし、出来る事はやった。
メグにはちゃんとお別れも言えたしな。
これからの長いメグの人生を、
ずっとオレの代わりに彼にはメグを守ってもらわにゃならん。
・・・これがオレのたったひとつの願いだよ。」

天使はやわらかく微笑むと、チコの頭に手を置いた。
「チコ。さあ、神の庭にもどりましょう。」





この話は、去年のクリスマスに
その後のチコとメグはどうなった?っという有難いご質問をいただいて
これもリヴの掲示板3枚に渡って掲載したものです。
『バレンタイン』の続編にあたります。

ちょっと季節外れですけれどw

島の掲示板の恐ろしい所は、オチだけが残って流れてしまったものが、
たま~に来て下さったお客様の目に触れてしまうところですねww

チコの犬種、年齢、大きさは極力みなさんのご想像に余地を残したく
あえて明言していません^^
どうぞあなたの豊かな想像力で、僕の拙い文を補ってやってください^^




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コメント 6

xephon

去年のクリスマスのものですね!

チコはつくづくメグがすきなんですね・・。

これだけ慕われているんだからきっとメグもチコのことを愛していたんですね。

チコ・・・クールだぜ!
by xephon (2009-02-08 22:57) 

takehiko

xephon さん、コメント感謝です^^

人間と動物の命の時間を、
神様は随分違う長さに定められたのだなあと思います。

僕は犬の眼が好きです。
真っ直ぐで信頼に満ちた瞳です。
リーダーと認めた主なら、犬の表情は本当に穏やかなものです。

このチコはきっと最高な主を持つ事が出来た
幸せな犬だったと思います^^
by takehiko (2009-02-08 23:25) 

まりか

わだつみさんの書くチコのお話だいすきだから、こっちにもあぷしてもらえてやったーラッキィ♪な気分w

このお話を読むと虹の橋のことを思い出すんだけど…虹の橋って知ってる?
どんな内容なのかっていうと、愛する動物たちと死に別れても飼い主さんが死ぬと天国の手前に有ると言う「虹の橋」でまた再会して、一緒に虹の橋を渡り共に天国に行く…っていう話。
チコも今はまだメグに会えないかもしれないけど、きっといつかまた一緒になれるから…^^

ちなみに「虹の橋」はこれですw
http://homepage2.nifty.com/AWS~dogs-cats/newpage50.html


by まりか (2009-02-11 11:27) 

がーろん

nice&コメント、ありがとうございます!
忙しくて、niceだけを残してしまい申し訳ありませんでした;

改めてお話を読ませてもらいましたが・・・
なんだかとても心に深く残る余韻がありますね。

自分は犬を飼ったことがないので、力いっぱい頷くことはできませんが
犬と人間の間に生まれる信頼性は、とても暖かいものだと思っています。


これからもどうぞ、素敵なお話を創ってください^^
楽しみにしてますw

(takehikoさんがコメントしてくださった記事にも、お返事を書いたのですが、こういうのって気づいていただけるのでしょうか・・・?;
ブログ交流がまだ浅いので、アドバイスなどいただけると嬉しいです!)

by がーろん (2009-02-11 13:19) 

takehiko

茉莉花さん、いらっしゃい^^

こんな拙い物語を喜んで下さってありがとうございます

『虹の橋』のお話は、愛する魂を喪った者が夢見る
理想の形なのかも知れませんね。
このお話は、初めて拝見しましたが、
自分があちらに行く時は、
僕が見送らねばならなかったいくつかの魂と
また再会できたら素敵だなと思います。

でも僕はちゃっかりと魂の生まれ変わりを信じていたりしますので
どうしても受け入れられない様々な別れであっても
それが、たとえ道の途中で断ち切られてしまった命でも
違う形であるにしても、自分が強く望めば
また廻り逢えると思いたいです^^

一億と二千年待っても・・ですねw

by takehiko (2009-02-11 15:26) 

takehiko

がーろんさん、お忙しいところわざわざ来て下さってとっても嬉しいです^^
しかもこんなに丁寧なコメントまで頂いて恐縮してしまいます。
ありがとうございました。

僕は一度お邪魔したところはうろうろする習性がありますので、
またちょくちょくお邪魔してしまうかもしれません。
アドバイスなんてとんでもない!w
僕もまだ始めたばかりで、何が何だか・・の状態ですw
どうぞこちらこそ、お眼汚しなものでしょうが
頑張って更新できるようにしてゆきたいと思いますので、
よろしくお願い致します^^


by takehiko (2009-02-11 15:49) 

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