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根性なしのハニーハント [雑記]

無抵抗のまるまるしたミツバチをぽかすかと退治するイベント。
攻撃するとハチは黒くなり下に落ちて動かなくなる。

13年前初代リヴリーを戦闘で亡くした僕は
リヴリーを戦わすことはもうしないと誓った。
今回のようなイベントでは相手は抵抗なくやっつけられるので
リヴリーを喪う痛みはない。

でもなんか嫌なんだ。
自分の大事なものが、
無抵抗のものを一方的に殴ってアイテムを奪う、というこのシチュエーションが。

Flash終了を受けて、最近いろいろ大掲示板でぼそぼそ意見を言っている手前
流石に嫌だから参加しませーん、じゃ説得力もないなぁと
一度はやってみるかと今回参加させてもらいました。
なんとか盛り上げるきっかけをつかめるかなぁという気持ちもありましたから。

パークでは放浪ではいない白ハチがいるので
コンプリートするにはどうしてもここに出現するハチを取りに行かねばならない。
僕のリヴリーのレベルは909。
あんまり人気のないムシチョウの種族経験値で、上位にランキングされている。
一番弱い投石の技で2回でハチは落ちてしまう。
そりゃあ一緒に集まった飼い主さんもえーーってなるでしょう・・。
高レベルのリヴリーが独占しちゃうよーと涙ながらも訴えも
大掲示板で複数見ていたし。

一度に出現するハチは5匹。
集まったリヴリーは4匹~7匹ほど。
初心者レベルの方にも行き渡らせたいので
誰かが攻撃してくれた留め射しをするしかないから
1時間3回ほどのトライでおおよそ5個から7個のアイテムを収穫。
白ハチは15匹、赤ハチは25匹、青ハチは35匹、
一番よく出る黄ハチは95匹でコンプーリート出来るのだが
この時点でもう頭がくらくら・・。
どれだけの時間と手間で、この気の使う作業をすれば・・。

せめて放浪の時の出現数がもっとあれば奪い合いにならないのに・・。


こんな仕様で盛り上がるのか・・?

時間と根性の無い僕はもうこりごり・・。

今回はVIPにしよう・・。

「はちみつホットケーキ」はうちの子は喜ぶだろうしなぁ・・。

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おたんこなす [雑記]

駅に向かう途中の細い路地裏。
50m弱くらいの長さだろうか、車が一台通れる幅の道路がある。
便利がよいので、駅に行く人や駐輪場に停めに行く人たちが
時間を選ばずいつも数人歩いている。
両脇が有料の駐車場であるため、まあ反対側から車が入ってきても
逃げ場がなく全く通れない、ということではないが
駐車場が満車であったりすると、車同士のすれ違いはかなり厳しい。
両入り口ともミラーはあるし、路地裏といえども直線なわけだから
侵入すればつまっちゃうな、というのは普通解るので
よほど強引に侵入しない限りは、お互いの譲り合いでトラブルにはならない。

先日たまたまこの道を歩いていた時
甲高い若い男性の声で「この、おたんこなすが~~っ!!」という罵声が聞こえた。
見れば僕の向かっていた方角の出口付近で、車が二台身動き取れずにいるようだ。
位置から言って、叫んだ男性の車の方が後から侵入してきたのは明らかだったが
反対側から僕の脇を抜いて進んだ車は、年配の男女が乗っていたようで
運転していたのはご婦人の方だった。
なんとか車を切り返そうと、歩いている人の見守る中
バックしたりハンドルを切ったり、見るからに危なっかしい。

若い兄ちゃん、バックしてやれよーと誰もが思ったと思うが
すでに兄ちゃんの後ろの侵入口には、3台4台ほど車が並んでしまっている。
沢山の見物客の中での
混乱と羞恥の中での思わず出てしまった「おたんこなすー」の一言だったと思うが
これには、この車の所為で歩みを止めさせられていた通行者の
一斉の失笑をかってしまった。

まあ、間抜けとかノロマであるとかの意味の罵声ではあるが
この言葉を最後に耳にしたのはいったいいつだったろうか。
まして20歳過ぎたばかりくらいの男性が使うのを初めて聞いた。

「おたんこなす」は「おたんちん」から転化した言葉といわれる。
そもそもは遊郭などで嫌な客を表す隠語だったと聞く。

「馬鹿やろう」でも「阿呆」でも「間抜け」や「鈍間」でもなく「おたんこなす」。
勿論、自分の祖父母くらいの年配者に向かってとんでもなく失礼なことだし
まして非は若者の方にあると思える。
頬を赤らめて、汗をいっぱいかきながら運転していたご婦人には申し訳ないが
このなんとも子供っぽいその場にそぐわない言葉に
足止めされていた見物客たちはどっと笑った。

結局若い兄さんは、そこで見兼ねたらしい強面の労務者風の男性に
叱られながらも誘導してもらい、無事2台はすれ違って反対の方向へと走り去った。

言葉は生き物だと思う。
同じ状況で気持ちを伝えるのも、言葉のチョイスを間違えると取り返しのつかぬ事態にもなる。
きっとこの青年は、親やもしかしたら祖父母にこういわれて育ってきたのかもしれない。
決して褒められた言葉ではないが
語彙が乏しくなったと言われる昨今、もっと殺伐とした言葉しか聞かなくなった罵声も
こんな言葉一つでふっと冷静に返れるならそう悪いものじゃないかな、と感じてしまった。

どうぞみなさまも事故のないように。

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おわりのはじまり [雑記]

愛着だなぁ、と思う。

今の事務局にFlash移行の力と活力があるのか。


今回の事でつけ刃的に調べたところによると
Flashは今主流のMTML5のように信頼性が高いものではないらしい。
ネット上では重くセキュリティ面の脆弱性もよく問題視されていたし
故ジョブス氏はいちはやくFlashのスマホへの導入を見合わせたとも聞く。
地上波放送がデジタル放送に切り替えられたように
今の流れではFlashの終焉は致し方ないこととも頷ける。

ただ問題はゲームなのだ。
リヴリーアイランドなのだ。

育成してゆくのを目的で始められた
あったかくも優しいコミュニュティーツールを
美しくも愛らしい毎日の歓びとなっていた場を
殺伐とした殺戮や戦いの日々ではない穏やかなゲームを
永久に喪ってしまうのではないか・・という

ゲーム業界の稀有なる存在なだけに大きな損失になると思う。

これは長い時間をかけて飼い主とともに作られてきた、大切な財産だと思う。



これを移行できるのは、事務局の情熱だけだ。
護りたいという熱い想いだけなのだ。


あと3年。
されど3年。



僕は何が出来るだろうか。


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大好きなリヴリーアイランドの住人として。 [雑記]

不具合のメンテが始まって5日目。

大掲示板をみると憂える声で溢れている。

自分も先日のWindows10のedgeの強制更新で
すっかり使い勝手が悪くなったPCだから言うわけではないが

そりゃあ不具合もあるでしょう。

15年間の長い間、歴代のOSを乗り越え
それに沿うよう調整し調整し、遊べるように頑張ってきてくれていたのだと思う。

すぐに停まってしまったり、画面が真っ白になってしまったり
それでも何とか先週までは騙し騙しでも動いてくれていた。

だが今回は様相が違う。
あきらかにその場限りのメンテだからすぐに元の不具合に戻ってしまう。
しかも何も経緯の説明や、早めの不具合のためのメンテナンス予定の説明がないから
ユーザーには不安しかない。

おりしもMicrosoft社の方で3年後にFlashの終焉のニュースが伝えられたばかりだ。

運営も今まで何度か変わってきていた。
それほど思い入れはないのかもしれない。
ただのお金稼ぎのサイトのひとつだ、と揶揄する人も多い。
ただ積極的に研究発表会へ参加できた僕は、
直接スタッフの人たちと会うことが出来た。
彼らも僕たち同様、とてもリヴリーを大事に可愛く思ってくれていたと信じたい。

僕はこのリヴリーアイランドに13年ほど住んでいた。
今ここの住人は、僕のように長くここにいて
リヴリーそのものに愛着のある飼い主も多いと思う。
あかちゃんが生まれて、成長して義務教育を終えるくらいの年月。
自分の入院でどうしてもインできなかった時も
友人たちに支えられ生き延びてこられた大事なリヴリーは
もはや0と1の羅列で作られたものではなく
生活の一部となっていたことに気づく。
数カ月ぶりに目にした元気なわが子に、しばらく涙が止まらなかった。

そんな子を、こんな形で終わらせるのは心がどうしても納得できない。
ユーザーの気持ちをないがしろにして、逆なでするような
事務局の対応が納得できない。

不具合があったことは経験上仕方がないことだと僕は思う。
ただ問題なのはその後の対応だ。
説明してもどうせわからないだろう、というのは失礼な話だ。
いったい今何が起こって、
システムの移行は可能なのか、
それによって今後どうして行くつもりなのか
そもそもメンテをいれるつもりなら、最低でも前日までにユーザーに報告すべきだ。
それによってこちらも動けることも多々あるのだから。



勘違いしないでほしい。
僕らは運営を責めたいんじゃない。
ただ、リヴリーを活かして続けたいだけなんだ。


切に切に願う

僕は納得をしたいんだ。


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エスカレーターの片側空け、という習慣。 [雑記]

僕はよく駅を利用する。

最近は当たり前のように上り下りのエスカレーターが各駅にあり
エレベーターも列を作って乗り込むのもよく見る風景だ。

歩行が困難で、このところ杖に頼って歩くようになって特に思うようになった。

「エスカレーターで脇を抜けて歩かれるのは、怖い。」

元気な時は健脚でならした僕ではあるのだが
病を経て歩行困難の上、腹に傷を持ち、
指もうまく使えなくなり、オマケに過度の貧血持ち。
身体的にはおそらく150歳くらいな体力で
しっかりエスカレーターの手すりに掴まってはいるものの、ぽんと肩を押されただけで
奈落の底へ落ちて行く恐怖がある。

一度かなり空いていた下りのエスカレーターの半ばほどで
軽い貧血を起こしたタイミングで、後ろから横を歩いて来たサラリーマン風の男性の足に杖が当たり
手から叩き落とされた杖だけが、階段の下まで落ちるという事があった。
僕はというとしゃがみこんで手すりにしがみついたおかげで、転落は免れたが
もし下に誰か、まして幼い子でもいたらと思うとぞっとした。

そのサラリーマン風の男性は、走って杖を拾い上げ、
また走って僕のところまで戻ってきて、平謝りに謝罪をしてくれた。

なぜ片側を空けて乗ることが、マナーのように言われるのだろう。
エスカレーター会社の人も、
片側だけに乗ることはバランス的にも早く壊れやすく、
そもそも歩くようには設計されていないので
とても危険だと盛んにPRしていた。

駅の混雑緩和のため・・という人もいるが
片側だけの一列に並ぶための混雑なら、
初めから二人ずつ乗れば2倍速く進むんじゃないだろうか。

確かにすべての駅に階段と、エレベーターがあるわけではない。
急いでいる人は階段行きなさい、といえない事情もあるだろう。



一昨日の病院の帰り、赤ちゃんを前に抱っこ紐でくくった若いお母さんが
件の駅のエスカレーターの空き側を、高いサンダルのかかとを鳴らしながら降りて行った。
もしひっかかって転倒して転落したら、まず一番のダメージはあの赤ちゃんだろうな、と
そう思いながらも、片側を開けて通らせてしまった僕も
その時は同罪だな‥と思ってしまった。



エスカレーターの片側を空けているということは、マナーじゃないと思う。
マナーというのは、周りの人に迷惑をかけないように忖度をすることだ。
元気で急ぎたい人の気持ちを慮ることではなく
年配者や身体的に不自由な人などの、気持ちを推し量ることこそがマナーじゃないだろうか。
狭く、動いているものに乗っている不安定な状態な人の横を、体をぶつけながら通るほどのことが
何故マナーとなったのかの方が不思議だ。

これは習慣でしかないと思う。
習慣は頭で考えれば、きっとなおせて行けるものだと僕は思う。


遅れそうな約束。
行ってしまいそうな電車。


それは果たして、誰かに大きな怪我や
取り返しのつかないことと引き換えにしてでも大事な事なのか。

僕も含め、頭でまず思考してみたいと思う。


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ありがとうチェスター [雑記]

今朝訃報が入った。
かねてから好きでよく聴いていたバンドのボーカルが亡くなった。
自殺であったらしい。
享年41歳。

5月に親友を亡くし、薬物やアルコール依存もあったという。

秋には日本でのライヴもあり、
ようやくチケットをとれたんだと大喜びしていた友と
涙もなく絶句した。

たとえようもない虚無感。
やりきれない絶望感。

ああ、この感じを僕は何度も知っている。

夢を叶えられなくて、病気とそのあとの想像される結果に恐怖して、
生活苦で、人間関係に疲れ果て、自分の居場所を見いだせずに・・。

僕の知人たちは僕の人生から退場してしまった。

その度に残されたものは問うのだ。
自分の無力さに絶望しながら、僕に何かできたのではなかったのか・・と。

だが悲しいことに、死のうとする強い意志をもったものを止めるすべは
どんなに親しい間柄でも、家族でもありはしないのだ。

その閉じた心に届くまで、何度も何度も呼びかけて、
自分にとってその人がどれだけ大事で必要であるかわかってもらえるまで
聴いてもらうしかないのだ。


彼の情感溢れる声はもう聴けない。
彼の思想、彼の哀しみ、彼の歓び・・・
美しい時間をくれた彼はもういないのだ。


彼を奪った彼を恨む。

それでも

ああ・・それでも


沢山の美しい刻を与えてくれた彼に
僕は心から感謝をしよう


チェスター。

寂しいよ。

会いたいよ。


でも沢山頑張ったんだよね。


どうか安らかに。




いつかきっとまた会える時を楽しみに。
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小説 中編 『ジグゾーパズルの一片』 [創作]

彼を突き動かしたものは『怒り』であった。
あたたかい場所を奪われた怒り。
お腹いっぱいの満足な眠りを奪われた怒り。
そして何より今のこの理不尽な暴力ともいえる
訳の分からない真っ暗な状況に閉じ込められるという怒り。

きっとよくないことだという予感はあった。
震えて救いを求めるような兄弟たちの鼻声も、
自分は決してたてるまいと、揺れ動く暗闇の中で四肢を踏ん張って耐えていた。
ようやく車から降ろされて、箱を開けられたとき
彼は兄弟たちをかばうように、自分たちを見下ろす人間をにらみつけた。
「元気でな。いい人に拾われろよ。」
人間は身勝手だ。
散々良い想いをさせてから、自分がいらなくなると余計なものとして捨てる。
それなら最初からなぜ僕らを産ませた。
苦しみをより苦しませるために、幸せな時を与えたのか。
それなら最初から関りを持たせるな。

人間が箱を空けて立ち去ると
ずんと寒さが落ちてきた。
寄せ合っても互いの冷たさが新たな震えを呼んだ。
これ以上ここにいては体力が失われて動けなくなる。
彼は箱に体当たりをしてみた。
箱は少しずれただけだった。
縁にわずかにかかる足でよじ登ろうとするが、何度も背から落ちてしまう。
「諦めない!ここで出来なければ生きて行けなくなるんだ!」
狭い箱の中で、思い切り助走をつけて縁に向かって飛び乗った。
腹のところに縁の角が食い込んで、鋭い痛みを感じたが
彼は後ろ脚をばたつかせてようやく箱の牢獄から這い出すことが出来た。
箱の中から兄弟たちの鳴き声が聞こえた。
どうにか連れ出せないか、何度も箱を調べても噛みついても
箱はピクリともしない。
彼は川べりまで降りるとたらふく水を飲んだ。
みんなにも飲ませてやりたい・・。
胸の大きな痛みとつかえが、涙となって溢れてくるようだった。

なんて・・無力なちっぽけな存在なんだろう。
生きていようが死んでしまおうが、誰も気づかない何も変わらない。
何のために?そんなこと知るもんか。
僕は生きている。まだ生きているんだ。
僕は僕が生きると決めたんだ。

彼は丈高い枯れた草原を歩き始めた。
川を外れると住宅街があり、狭苦しい家々の立ち並ぶその向こうは
川の流れよりも早い自動車が、列をなして同じ方向へ流れて行く。
ふと彼は足を止めて、鼻を空に向けた。
食べるものの匂い。
彼はふらつく足で、その匂いがする一軒の家の前に辿り着いた。
用心深く、ゆっくり垣根の方から中を窺う。
小さな老婦人が、背を丸めて何やら食事を作っているのが
明け放した庭側の窓からみえた。
どうやら焼いているお肉の煙を外に出そうと窓を開けているらしい。
彼はその後ろ姿を凝視しながら、一歩一歩と近ずいて行く。
自然にあふれたよだれが、ぽたりぽたりと地面に落ちるのも気づかない。
老婦人が肉を皿に盛ると、振り返ってテーブルに置こうとした・・
と、彼女は今まさに窓から足を家に踏み込もうとしている小さな犬に気が付いた。
「ぶたれる!逃げなくちゃ!」
彼は腰は引けているのだが、足が勝手に前に進んでしまう。
老婦人はそんな彼を驚いたように見つめたが、すぐにまた後ろを向いた。
そして棚から小さな皿を取り出すと、盛り付けた食事を少し取り分けた。
「なんとまぁ。かわいらしいお客さん。お腹が空いているんだね?」
彼女は静かに少し離れたところにその小皿を置いた。
「おいで。たんと召し上がり。」
彼はおそるおそるその小皿に近付くと、老婦人の方を見ながら一口食べて、
さっと後ろに飛びのいた。
口の中にひろがる温かさ・・。それが胸に落ち腹に落ちてゆく。
ああ・・うまいなぁ。
そしてもう一度小皿に近付き、今度は顔を埋めるようにして貪り食った。

それを見て老婦人はそっと冷蔵庫から出した牛乳を鍋にかけて温めた。
すこし冷ますと、別に小皿にそれを注ぎ、子犬の横に静かに置いた。
「迷子になったのかね?かわいそうにねぇ。」
老婦人は、ゆっくりと子犬の頭に触れた。
彼は少しびっくりはしたが、逃げることはしなかった。
口だけは一生懸命動かしてはいたが。

きれいに平らげると、今度は眠くなってくる。
老婦人のそばはあたたかく、柔らかなバスタオルはとてもいい匂いがして
それにくるまれると、なぜかとても安心できた。
老婦人は笑いながら、
「うちの子になってもいいんだよ?」と言っていたのはほとんど夢の中ではあったが
尻尾を大きく振って応えたのだけは、なんとなく覚えていた。

それから二人の共同生活が始まった。

老婦人は独り暮らしだったが、ひっきりなしに人が訪れた。
彼女の話では、その人たちは「はんばいいん」という種族らしく
彼女の持っている「お金」というものが大好きらしい。
「お金」をみんな持って行かれると、彼女はとても困るらしいので
僕の仕事はその「はんばいいん」たちを追い払う事だ。
その代わり彼女は、僕の食事とお散歩と
あったかい寝床を用意してくれることになった。
足の少し不自由な彼女のお散歩は、僕のペースじゃなく
彼女に合わせるもので、「いい運動」というものになるらしい。
僕はすぐ彼女が大好きになった。

部屋の中に敷き詰められた新聞紙のがさがさもようやく外され
毎日通った河川の匂いに兄弟たちを探すのも、儀礼的になってしまった頃
事件が起きた。
毎朝良い匂いで目覚め、彼女の姿をみつけて挨拶をするのだか
今日はなんだか部屋が寒々しい。
僕は彼女の姿を探した。
まだ布団の中にいるらしい。
鼻先でちょんと顔をつついてみる。
薄く目を開けて何か言うのだが、聞き取れない。
なにか・・おかしい。
そうだ、匂いだ。いつもと違う。何か違う匂い。
僕は彼女のパジャマの袖をひっぱる。
だめだ・・。動かせない。
人間の手を借りなくちゃだめだ。
無力だった自分を、いなくなった兄弟たちの姿がふと頭をよぎる。
大事な僕の家族。
喪って・・たまるかっ!
僕は家を飛び出した。
走って走って走って走って
お散歩途中でいつも挨拶するヒゲ面の親父のところまで駆け抜けた。

呑気に家の前であくびをしている親父の前で激しく吠えた。
「なんだなんだ?」
びっくりしている親父が目を丸くしている。
僕は何度も吠えて、後ろを向いて駆けることを繰り返した。
しばらくきょとんとしていた親父も、
「シズさんのところのコタロウだよな?ついてゆくのか?」と車に乗り込んだ。
僕は急いでまた家に戻る。
すぐ後ろをヒゲ親父の車がついてきて、家の前につくなり飛び降りてきた。
「シズさん!シズさん!どうした!なにかあったのか?」
玄関をがたがたして鍵がかかっているので、庭から親父が入ってきた。
「すまんがあがるよ!コタロウどこだ?」
僕が顔を出すとすぐに親父が老婦人のところに駆けつけて声をかけた。
「シズさん!どうした?具合が悪いのか?起きられないのか?」
彼女がまた薄く目を開けて微かにうなづいた。
ヒゲ親父は見かけに似合わずてきぱきと救急車の手配をすると、
僕の頭を優しく撫でた。
「でかしたぞ。よく知らせてくれたな。大丈夫。シズさんは心臓が悪いから
きっと発作を起こしたんだな。」
直ぐに救急車のサイレンが近ずいてくる。
ヒゲ親父は外に出て救急隊員を誘導すると、大きな声で言った。
「シズさん、心配するな。コタロウは僕がしばらく預かるから。
後の事は気にしないで、元気になってもどってきてくれよ?。」

両の手を合わすようにした老婦人がストレッチャーに乗せられて搬送された。
その後ろでヒゲの親父と犬がいつまでも見送っている。
「お前すごいな。誰も出来ない事、したんだぞ?
人の命を、今救ったんだぞ?」
コタロウと名付けられた犬は静かに尻尾を振った。
「まあ、家族だからね。当然のことをしたまでさ。」
「お前もなかなかのもんだったよ。ちゃんとわかってくれたからね。」
ひとりと一匹は同時に顔を見つめ合った。
そして同時にふっと笑った。

僕が生き延びてこうしてここに来れたから、シズさんは死なないですんだのか。
それなら僕は生きてきたことは無意味なんかじゃない。
大事な人を守ることが出来たんだから。
シズさんが戻ってきたら、もっといっぱいお話をしよう。
そうだ、僕の兄弟の話もしよう。
美しかった夕日の話もしよう。
まるまるとした雀が僕のご飯をたべちゃった話もしよう。

家族なんだもの。
相棒なんだもの。

かけがえのない人なんだもの。

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小説 中編 『ジグゾーパズル』 [創作]

温かくて安全な「おかあさん」のところから、
僕たち兄弟は次々と不思議な匂いのする、狭くて四角い場所に入れられて
直ぐにふたを閉められた。
べりべりと大きな音がして、四角い箱の隙間から見えていた明かりが
次々に塞がれてゆく。
僕たちはなるべく箱の真ん中によって、身を寄せ合った。
直ぐに持ち上げられる感覚がして、外に連れて行かれた。
初めての匂い。湿った土の匂い。
僕らは人間というものと暮らしていた。
この人間が僕らのおかあさんに食べるものを運んできていた。

おかあさんはどうしているのかな? 
おかあさんは知っているのかな?

一度この人間が僕を持ち上げようとしたとき、
おかあさんが低い声で怒ったのを僕は知っている。
その時この人間はおかあさんの頭を、履いていた履物でぶったんだ。
それから僕は煙たい嫌な匂いのするこの人間が来ると
直ぐに隠れるようにしたんだ。
今回はぐっすり眠っていて、つい油断しちゃったんだな。
ふわふわ動いていた箱は、大きな音のする機械の中に人間と一緒に入れられると
低い鳴き声をあげながら、真横に走り出した。

僕らは身を寄せ合い、吐きそうなのを我慢して震えていた。
体が箱の中で大きくバウンドすると、大きな機械は走るのを止めた。
お水が沢山流れる音がする。
僕らの箱は持ち上げられると、地面におかれた。
草と土のいい匂いとお水の匂い。いろんな生き物の匂いがする。
べりべりとまた大きな音がすると、箱の上が開けられて、
人間の大きな姿がいっぱいに広がった。
「元気でな。いい人に拾われろよ。」
人間はそう言うと、そのまま大きな機械のところに行き、そのまま行ってしまった。

おかあさーん。
おかあさーん。
ここは寒いよ。
お腹が空いたよ。
おかあさーん。

僕らは互いにくっついて暖を取りながら震えていた。
しばらくすると一番大きな兄弟が、箱からようやく前足をかけて外に転がり落ちた。
いかないで。おいてゆかないで。
僕も
おそとにゆきたいよ。
おかあさんのところに帰りたいよ。
しばらく箱の周りをくるくるしていた彼は、やがていなくなった。
寒くてひもじくて怖い長い長い時間。
残された兄弟たちはもう鳴く元気もなくなっていた。

喉が渇いてお腹が空いて、目を開けるのも億劫なころ、
足音が沢山聞こえてきた。
人間が来た。
5人ほどだろうか、耳障りな声に僕はますます箱の中で身をすくめた。
「おい、犬がいる。捨て犬だ。」
ひとりが頓狂なこえをあげた。
「今時段ボールかよー。」
「保健所つれてゆけよ!薬殺で楽に死なせてもらえるぜ。」
「もう死んでんじゃね?」
ひとりの少年が大声で笑いながら、段ボールを蹴飛ばした。
もうひとりも歓声をあげて、続いて蹴り上げた。
ざりざりざりと音を立てて、段ボールは川に滑り落ちてゆく。
段ボールごと、僕らは川に浮いていた。
川の流れは速く、段ボールはくるくると回りながら下流へと流されてゆく。
少年たちはしばらく見ていたが、そのまま新しいゲームの話をしながら行ってしまった。

川の流れに翻弄されながら段ボールは速さを増し、川の中腹まで僕たちを運んでゆく。
段ボールの箱はすでに原型を留めることも出来ずに、急速に水の中に沈んでゆく。
あっという間に冷たい川の水に、僕たちを放りこんだ。
懸命に手足を動かす。
前の方に流れていた兄弟の頭がひとつ沈み、またひとつ沈んで浮いてこない。
それを横目に見ながら、ただ懸命に痺れた四肢を動かそうともがいていた。

どうして・・?
僕がなんで・・?
おかあさん、おかあさん、おかあさーん・・。
もう・・つかれたなぁ・・。

そう思った時に、不意に体が軽くなった。

おかあさん・・。怖い夢を・・みたんだよ・・?

そうつぶやくと、彼は意識を喪ってしまった。



今日は早々に仕事を切り上げて、彼は家路を急いでいた。
「カナデちゃんは喜んでくれるかなぁ・・。」
手には大きなリボンのかけられたぬいぐるみの箱がある。
娘の5回目の誕生日。
目に入れても痛くない、という意味を彼は娘が出来てから初めて味わった。
笑うと天使。泣いてもかわいい。
寝ていてもこんなかわいい子がいるのだろうかと見惚れてしまう。
そんな様子を妻はいつもおかしいと笑う。
その妻も、今日は大きなチョコレートケーキを作るんだと言って、
朝から気合が入っている。
川から吹き上げてくる風はもうすっかり冷たくなって
秋から冬の始まりをそろそろ感じさせる。
首をすくめて何気なく川に目をやると、
彼はその小さな頭が浮き沈みしているのを見てしまった。
「犬だ!」
「なんてことだ。まだ子犬じゃないか。」
彼は川べりまで走って降りて行く。
川の真ん中あたりの枝ような漂流物に子犬は引っかかっている。
それもすぐに外れてしまいそうだ。
彼は上着とズボンと、靴と靴下を脱ぎ捨てると、
荷物をその上に置きざぶざぶと川に入り込んだ。
心臓をつかまれるような水の冷たさに、一瞬ひるむが、
そのまま川の中を歩き出した。
水かさは徐々に増してゆき、すでに腰のあたりまで来ている。
上流に比べれば、いくらか穏やかな流れとは言え、
気を抜けば体ごと流れに持って行かれる。
なにより冷たさで足の感覚がなくなってきている。
彼はできるだけ手を伸ばして、子犬を捕まえようとして、はっと気づく。
「僕・・犬は苦手だったんだよな・・。」
その時ひっかかっていた犬の前足が外れ、
犬の体がすいっと彼の方に流れてきた。
慌てて彼は手を伸ばして子犬を抱きしめた。
そのまま岸辺に向かう。
「おい・・生きていてくれよ・・。死ぬなよ・・。」
岸に這いあがると、彼は上着に入っていたハンカチでごしごし子犬をマッサージした。
それだけではまだ濡れているので、
シャツを脱ぎそれでくるんでその上から上着でくるんだ。
「今日は娘の生まれた日なんだ。特別な日なんだ。
絶対に助けるからな!」
彼は足をもつれさせながらズボンを履き、靴をひっかけると
荷物もくるんだ子犬も一抱えに抱えると、
帰路にある獣医師の看板を目指して走り出した。

「おいおい・・。君の方がびしょびしょじゃないか。」
眉の濃い獣医がタオルを放ってよこすと、診察台に子犬を乗せた。
「川から拾い上げた時体をごしごししたら、かなり水を吐いたんです。」
彼はありがたく借りたタオルで自分の体を拭きながら診察台の子犬を見つめた。
「うん。・・・それがよかったみたいだね。
栄養状態もそれほど悪くないし、ダニもついていない。」
「もう離乳も終わっているようだね。
あったかいご飯をたらふく食ったら元気になると思うよ。」
「・・・で?この子は君のうちの子じゃないのだね?」
「はい。」
「それだけ一生懸命助けた子だ。君のところで飼ってあげることはできないの?
僕のところはもう手一杯だから、保健所に連絡して前の飼い主を探すかい?」
「でも見つからなったら、処分されちゃうんでしょう?」
「里親という事も出来るけど、まだまだ数少ないからねぇ。」
「家族に聞いてみます。連れて帰って大丈夫かな・・?」
「あったかい点滴したから、直ぐに目を覚ますと思うよ。
ちょっと擦り傷程度の怪我はあるけど、骨まではいっていないしね。
丈夫な子だ。」
「ありがとうございました。」
彼はそっと子犬の頭から体を何度も撫でた。
子犬の目があいて彼の目と合う。
「大変な目に遭ったね。僕のところに来てくれるかい?
せめて元気になるまで僕の家族と一緒に暮らしてみないかい?
きっと愉快だと思うよ。」


あったかい手だった。
心地よい優しい手だった。
嬉しくて安心して泣きそうになった。
そっと舐めてみる。
「うん。ありがとう。
僕はあなたと一緒にいたい。」

獣医が気に入ってもらったようだね、と笑った。
彼は心底嬉しそうな笑顔でもっとたくさん撫でてやってから、
タオルと上着にくるんだまま
プレゼントの箱を小脇に抱えて家まで走って帰った。

「お帰りなさーい!おとーさんっ!」
カナデが玄関先まで走って出迎える。
「お母さんが大きなチョコレートケーキ焼いたの!」
「お誕生日、おめでとう、カナデ。今日はご馳走だね。
ちょっとおかあさん来てくれるかな?」
「おかえりなさい。お疲れさま。どうしたの?」
エプロンで手を拭きながらメグがにこにことでてくる。
とすぐにびしょ濡れでよれよれの彼に目を見張ると、
そのままお風呂先にどうぞね?
と着替えをあわてて用意してついてきた。
簡単にいきさつを説明して、上着の下に隠していた子犬をみせると
メグは目を真ん丸にして子犬を見つめる。
「ああ、なんてかわいい!
これはこの子を飼う運命なのだと思うわ!
ねえ、家で飼いましょう?
あなたが苦手とおっしゃるから、今まで我慢してたの!」
彼は子犬ごとメグを抱きしめた。
「よかった・・。君が賛成してくれて・・。
うんとかわいがって大事に育てて行こうね?」
「はい!」
「さあ、お誕生会、二人分だね?急いで支度しよう。」
「そうね!カナデ喜ぶでしょうね。
・・・あら・・?」
メグは子犬のお腹の模様をそっと撫でた。
「これと同じ模様、昔飼っていたチコにもあったわ。」
そしてカナデとそっくりな、少女のような顔で最高の笑顔を彼に向けた。
「・・・やっぱりうちの子になる運命だったのかもしれないわね?」




ふーー、と大きく息を吐いた天使はううんと伸びをした。
「やれやれ。やっと納まるところに納められたよ。」
「また幸せな人生を送って帰っておいでよ。一番大好きな人たちのところでね。」




まだ怪我をしているから優しく・・だよ?と言われて、
カナデはぬいぐるみの箱から出てきた
茶色の子犬と真っ白いうさぎのぬいぐるみを交互に見比べた。
ぱぁっと顔が輝く。
「新しい家族ね!ありがとう!おとうさん!」
そしてそおっと優しく子犬の頭をなでる。
「はじめまして。あなたのお名前はチョコちゃんね?
私の一番大好きなお名前なの。」
チョコがぺろりとカナデの顔をなめた。
きゃっきゃっとカナデが笑う。

メグと彼が顔を見合わせて微笑んだ。




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リヴリー小説 中編 『梅雨の狭間』 [創作]

もうすぐ親友のお誕生日です。

ムシチョウのノドくんは、お誕生日が大好きです。
お誕生日にはおなかいっぱい甘い大きなケーキをいただけます。
最近はあまり元気がない武彦さんも、
お誕生日のお話をすると、にこにこと聞いてくれます。
それにどうして解るのか不思議なのですが
ノドくんの大好きなものや、素敵な贈り物を
武彦さんやゼフォンさんや、親友のトビネのイェルクッシェくんが
いつもくださるのもとてもとても嬉しいのです。

ですから親友のお誕生日には、きっときっと喜んでもらうものをプレゼントしたくて
ノドくんは何カ月も前から、一生懸命考えています。

イェルクッシェくんは響鬼さんが好きだし
カッコいいものも好きだし・・
獣の槍もパンダさんもカピパラさんも好きだしなぁ・・
ぽりぽりのお菓子も、甘いカレーも、チョコレートも、
お魚のラーメンも好きだなぁ・・。

ノドくんはすっかり頭を抱えてしまいます。
何が一番喜んでもらえるのかなぁ!
僕がいただいた時に嬉しかったのとおんなじくらい嬉しいものって、なんだろう!

今日もノドくんは一生懸命
イェルクッシェくんのお誕生日プレゼントを考えていました。
あたりはもう真っ暗。
日中のじとじと雨にこもった部屋の空気が
窓を開けるとさああっと一気に吹き飛ばされました。
上空にはぼんやりとしたお月様が、流れる雲の隙間にみえました。

「気持ちいい風だなぁ!」

その時大きな羽音と共に、黒い塊がノドくんのお家に入ってきました。

「わあ!!だれだい!」

ノドくんはあんまりびっくりしたので、尻餅をついたままで
ぶんぶんという羽音を追って目をくるくるさせました。

大きな黒い塊は、ごん、ごん、と音を立てて灯りにぶつかり、天井にぶつかり
ノドくんのお隣に仰向けにひっくり返って6本の足をもごもご動かしました。

「おおーっと、失礼。灯りにつられてきてしまったよ。」

ノドくんはおそるおそる近ずくと、短い前足をひっぱって起こしてあげました。

「大丈夫?ずいぶんいっぱいぶっかっちゃってたよ?」

「ありがと。ありがと。わたしはムグリともうします。」

ムグリは前足で口元の触角をなでつけながら挨拶をしました。

「ムグリさんはカナブンだね!すごく綺麗なぴかぴかの色だねぇ!
響鬼さんのまじょーらからーみたいだ。

ノドくんは初めて見る大きなカナブンに目をぱちぱちさせました。

「ようやく月がでたので、飛行してみたくなってねぇ」

はっはっはっはっとムグリはおなかを揺すって笑いました。

「どうだい?一緒に夜のお散歩としゃれこまないかね?」

ムグリはよいしょよいしょと窓の枠に腰を掛けると、ノドくんを振り向きました。

「うんっ!行こうっ!」

ノドくんはぴょこんと窓に飛び乗り、ムグリの背中に掴まりました。

「ようし、行きますぞ!」

ムグリは力強く硬い翅を開くと、一直線に上空の朧な月をめがけて飛び立ちました。

・・・・と、翅に掴まっていたノドくんはたまりません。

力強い硬い翅の一撃を喉元にくらわされて、羽ばたく間もなく意識を喪うと
放物線を描いて長雨にしっとりと濡れた丈高い草原に落ちて行きました。

「私の翅はすべるかもしれませんので、
しっかり掴まってくださることをお願いしますぞ!」
「私も中々の腕っぷしでね?
まだまだ君くらいのモノなら、軽々っていうところですけれどもねっ!」
「どうぞ安心してくれたまえよ!」

ムグリはノドくんをすっ飛ばしたことなど全く気付かずに、
さらに高く飛んで行ってしまいました。

さてノドくんはというと、たくさんの雨で伸び放題の柔らかい草の葉のクッションに
柔らかく受け止められて、二度三度とバウンドすると
ぽちゃんと大きな水たまりの中に落ちました。
しかしまだ目を開きません。
しかもその朱い体はゆっくりと水たまりの中に沈んで行き、
みるみるお顔が黄色の嘴を残して見えなくなり、それもやがて見えなくなりました。
最後までみえた小さな手の指も、吸い込まれるように水中に没すると
大きな泡がひとつふたつ底から湧いてきたのを最後に
何事もなかったように静かになりました。
しばらく揺れていた水面も、やがて静まり
濁った泥の面には、大きなまあるい月が映し出されていました。

夜遅くに訪ねてきた声に、イェルクッシェくんはぴょこんと飛び起きました。

「武彦さん、こんばんはーっ!」

ゼフォンさんが扉を開けるよりも早く、イェルクッシェくんはお友達の武彦さんの足に
ぎゅうっとくっついて挨拶をしました。

「あれ?ノドくんはお留守番?もう寝ちゃったの?」

ひとしきり武彦さんの体を上ったり下りたりして親友を探したイェルクッシェくんは
大きな頭を傾げて聞きました。
ようやく扉を開けたゼフォンさんに挨拶をした後、武彦さんは沈んだ顔をむけました。

「やっぱりこちらにも来ていないのですね。
昨日の朝からノドくんを呼んでいるんですが、応えてくれないのです。」

こんなことは初めてなので・・と武彦さんはうつむきました。

「イェルクッシェ。ノドくんのところまでとんでみてくれないか?」

ゼフォンさんが声を掛けました。

「まかせておいて!シュッ!」

イェルクッシェくんは響鬼さんのポーズでさっと消えました。


「あれえ?」

そこはいつも見慣れたわだつみのノドくんの家です。

「ノドく~んっ!どこだい?」

きょろきょろと見渡してみてもノドくんの姿はどこにもありません。
イェルクッシェくんはもう一度ノドくんの名前で追跡の技をかけてみました。

・・やはりわだつみの家に出ます。

「ノドく~んっ!ノドく~んっ!どうしたの?出てきてよーっ!
ぼくだよー!イェルクッシェだよーっ!遊びにきたよーーっ!!」

イェルクッシェくんの胸の奥に大きな黒い塊がつかえたような気持になりました。

「ノドくん・・。」

いつも遊んだ木の上、花の陰、かくれんぼした本の間・・。

「ノドくん・・ノドくん・・ノドくん・・。」

頭の隅を、急にいなくなってしまった
幾人ものお友達のお顔が通り過ぎました。
イェルクッシェくんは頭をぶるぶると振って、
喉の奥からこみあげてくる塊を飲み込みました。

僕に何も言わないでノドくんがいなくなる訳ない。
武彦さんにあんな悲しいお顔をさせる訳がない。

イェルクッシェくんはぎゅっと口を固く結ぶと、
一番の親友のゼフォンさんのお名前を唱えました。

ゼフォンさんと武彦さんは、イェルクッシェくんのお顔を見て
ノドくんが見つからなかったことが解りました。

武彦さんの青いお顔をきずかし気に見つめながら、ゼフォンさんが口をきりました。

「イェルクッシェ。心眼でノドくんをみてくれないか?」

イェルクッシェくんは直ぐに目を瞑って答えました。

「お腹は半分くらい空いているけど、ちゃんとみえるよ!」

「夜眠る前に満腹まで食べていたからね。そうか、無事でいるんだね。
ありがとう、イェルクッシェくん。それだけでも解って嬉しいよ。」

武彦さんはそっと小さなイェルクッシェくんの頭を撫ででくれました。
我慢していた涙がぽろりとイェルクッシェくんの頬を伝いました。
武彦さんやゼフォンさんにとって、自分たちがどれほど大切な存在であるか
そのてのひらを通して、通心しなくても痛いほど感じ取れたからでした。

「心配をかけてごめんね。
ノドくんが戻ってきたときに迎えてあげたいから、僕は島に戻るよ。」
武彦さんはそれでもゼフォンさんとイェルクッシェくんに笑顔を作ると
手を振って帰ってゆきました。


さて。
ノドくんはどうしたのでしょう。


ノドくんはぼんやりとした光の中で座っていました。
「ここはどこだろう?」
思わず出した声は変な風にくぐもって、
なにかに吸い込まれるようにふっと消えてゆきます。
見渡す限り白い霧のようで、
まるでミルクの中にいるみたいだなぁ、とノドくんは思いました。
ちょっと怖くなって、自分の手のひらを見ると
心なしか色も褪めて白っぽくなっている気がします。

「おーい。おーい。」

ノドくんは大きな声で叫んでみました。
やはり声はすっと尻切れトンボのように途切れて、
耳が痛くなるような静けさがすぐにやってきました。

「武彦さーん!イェルクッシェくーん!」

上を見上げると、白い空がゆらゆらと揺れているように見えます。
ノドくんは立ち上がると、両手をいっぱいまで前に伸ばして
ゆっくりゆっくり歩きだしました。
指の先にも、つま先にも何も当たりません。
どのくらい長い間歩き続けたでしょう。
ふり向いた道も、もう白い霧の向こうに消えてしまっていました。
ノドくんは不安と恐怖と絶望でぺたんとその場に座り込みました。

「武彦さーん!武彦さーん!たすけてーっ!こわいよぅ!こわいよう!!」

掴んだ地面は白いふわふわとした綿菓子のようでしたが、
確かに地面としての感触があります。
ノドくんはふとそれに気づいて、足元を両方の手で掘ってみました。

するとどうでしょう。

白い地面の下から鮮やかな黒い土が現れました。
色のない世界に突然現れた黒。
ノドくんは夢中で回り一帯を掘り始めました。
今度は鮮やかな緑。
白い霧のような色に埋もれることのない滴るような緑色です。

ノドくんの疲れた顔に、ようやく笑顔が浮かびました。

「こんにちは。君たちは生まれたばかりの葉っぱだね?」

その時上空を揺らして、一陣の風がざあああっと吹き降りてきました。
一瞬目を瞑ったノドくんでしたが、すぐに周りの異変に気付きました。

それは・・音でした。

風に揺れる草の音が周りから一斉に聞こえたのです。

ノドくんの見開いた目に映ったものは
霧がすべて吹き払われた夜の草原でした。

さわさわと風に揺れる身の丈ほどの草の香り。
雨に濡れた土の香り。
耳を澄ますと、静寂の中にも草が伸び行く音さえも聞こえるのです。

そしてはるか上空にはまあるいお月様。

ノドくんの目に、今度は新たな明るい涙が浮かびました。

その時、きらりと目の端に何かが光りました。

ノドくんが近づくと、小さな黄色の種がいくつもお月様の光を反射しています。

「これ・・みたことあるなぁ・・?」
ノドくんはくんくんと匂ってみましたが、そっといくつかを袋の中にしまいました。
これをイェルクッシェくんへのプレゼントにしよう!
きっと素敵な実がなるかもしれないもの!
喜んでもらえたらいいなぁ。
お誕生日、間に合うといいなぁ・・。

武彦さん、イェルクッシェくん・・・早く戻りたいよ・・。

ノドくんはぎゅうっと口元を食いしばって、目を閉じました。


わだつみの家で、武彦さんはノドくんのことを心配して何度も呼びかけていました。
お腹すいているんじゃないか、怪我をしているんじゃないか・・
こちらに来たばかりの頃、家に帰れなくて行方不明になったお友達を思い出して
事務局のパトロールさんにもお願いしてみましたが、まだ何も連絡がありません。

静かにドアを叩く音がして、
ゼフォンさんとイェルクッシェくんが来てくれました。
「武彦さん。もう一度今度はみんなで呼びかけてみませんか?」
「きっとみんなで呼んだら聞こえると思うんだ!」
イェルクッシェくんの後ろには、ノドくんの仲良しのお友達がたくさん来ていました。
ジャスミンさん、ポイトコナくん、秀吉くん 瑞貴☆妃さん・・

「みんな・・ありがとう。」
武彦さんはみんなの優しい気持ちに、胸がいっぱいになりました。

「さあ、いくよーーっ!」
イェルクッシェくんが先頭に立って、声をあげました。

「ノードーくーーーんっ!!ここだよーーーーーっ!!
帰っておいでーーーーっ!」

みんなが口々にノドくんの名を呼びます。
武彦さんもゼフォンさんも一緒に呼びかけました。

「ノドくん。帰っておいで。みんな待っているよ・・。」

武彦さんがそうつぶやいた時
見知らぬ地にいたノドくんは、はっと頭をあげました。

「呼んでる・・。僕の事・・呼んでるっ!

イェルクッシェくんの声だ!武彦さんの声だっ!!」

ノドくんはそのまま助走もつけずにぽーんと飛びました。
懐かしい顔が存在が、ノドくんの体中が満たされていっぱいになります。

イェルクッシェくん!ジャスミンさん!ポイトコナくん!
武彦さん!ゼフォンさん!武彦さん!武彦さん!

会いたい、会いたい、会いたい、会いたい!
今すぐに。
今!!

ノドくんの朱い体がしゅーんと持ち上げられ飛ばされます。

「ただいまぁ!みんなぁ!」

ノドくんは武彦さんの腕の中に抱きとめられ、
すぐに仲良しのお友達にもみくちゃにされました。

「やったぁ!おかえり!ノドくん、おかえり!」

みんなが大喜びで口々に呼びかけました。

ノドくんはもみくちゃにされながら、
少し離れて下を向いているイェルクッシェくんのそばに駆け寄りました。

「イェルクッシェくん。君と武彦さんの声が聞こえたんだ。
ありがとう。僕、戻れないんじゃないかってすごく怖かった。心配かけてごめんね?」
そして、袋から種を取り出すと、そっとイェルクッシェくんの手に握らせました。

「イェルクッシェくん、お誕生日おめでとう!
日付が変わったから、ぎりぎりで間に合ったね。
これ、ぴかぴかの種なんだよ?」

イェルクッシェくんは、じっと手の中の種を見つめました。

その手をまたぎゅっと握りしめると、ノドくんの首に抱きつきました。

「ぼく・・ぼく・・ね?」

そしてシッポまで振るわせて大きな声で泣きだしました。

「僕も・・とってもこわかったんだよ?
プレゼントよりも僕、ノドくんがいるほうがいいんだ。
ノドくんがいてくれるほうがいいんだ。」

そしてふたりは武彦さんとゼフォンさんが、やさしく撫でて眠りにつくまで
ずっとお互いの手を握りしめていました。

「お店が開いたら、
二人の大好きなケーキを買ってお祝いしてあげなくちゃいけませんね。」

ゼフォンさんも安心したように微笑みました。

翌朝、ノドくんとイェルクッシェくんは不思議な黄色い種を
土に埋めてお水をあげました。
そして大きなケーキでお誕生日のお祝いをしました。
ゲームをしたり、おしゃべりをしたり、
みんなはいっぱいお腹を抱えて笑い合いました。

あの不思議な場所の種は、不思議な魔法がかかっているのか、ぐんぐんと伸びて
数日で大きな実をつけました。

「トウモロコシだったんだね!」

ふたりは顔を見合わせてにっこりしました。

甘くておいしいトウモロコシは、お友達みんなで分け合っても
まだ余るくらい沢山実りましたので
半分はゆでたり焼いたり、スープにしたり、パンに入れたり
みんなでお腹いっぱい食べました。
あとは来年もまたそのあとの年も食べられるように、種として残すことにしました。

きっとその甘いトウモロコシを見るたびに、
心で呼び合い、応えることのできた大切な友人を思い出すことでしょう。


最後にふたつほど。

ムグリ氏の名誉のためにもお話をしておかなくては。
ノドくんを振り落としたのに気づいたムグリ氏は
遅ればせながら、仲間を引き連れて捜索隊を編成してくれました。
ただ、みなさんあちこちにごちごちぶつかって怪我ばかりして
ほとんどの時間を薔薇の花の柔らかなベットで休んでおられましたけれどね。

そしてノドくんが落ち込んだ場所はいったいどこだったのでしょう。
ノドくんは、「物事が始まる前の場所」みたいだったといいます。


もしかすると、次元の隙間だったのかもしれませんね。

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おひさしぶりです(入院のこと) [雑記]

今月初めに、一年ぶりに更新しました。
まったくもってご無沙汰しております。

お客様の少ない僕のところですが
自分の記憶も怪しげになってきたため、
自分の記録として近況報告をすこし。

一年前の入院より、ただ苦痛に耐えるだけの毎日でしたが
遂に強い痛み止めも効かなくなり
七転八倒の末、意識を喪う数日を経て
流石にこれ以上は死んじゃうヤツだな・・と救急車を呼んだのが
八月の終わりの深夜。

自力で外まで這い出るも、救急車の中で七転八倒。
病院に着いて診察を受けるも、すざましい苦痛で意識は朦朧。
痛み止めを打ってもらうも、まったく効かず、これ以上は心臓が持たないと
次の痛み止めの時間までの地獄のような時間・・。
むしろもう殺してくれ、楽にしてくれと真剣に思ってしまうものでした。

それから様々な検査が始まり、
結果、無理と言われた手術をやらない事には、このままでは三日ももたないと
どうせだめなら、手術をやってみようと
家族が呼ばれ、緊急に様々なジャンルの医師を招集され
日をまたぎ、3度にわたる手術を敢行。

不安材料はありすぎる手術だった。
ひどすぎる貧血状態。
免疫力や抵抗力の低下。
そもそも腹になんども刃を入れているものだから
もう腹を開く場所がないw
医者の方も、異例中の異例だったそうで
家族も僕も、一応覚悟はしておいてくださいと言い渡され
僕は点滴の管だらけの中、遺書を書くこととなる。
もともと持っている血液の異常の所為で、貧血が深刻になり
多量の輸血を行いながら、腹の腫瘍を取るのだが、
癒着もひどく、他の臓器を傷つけないためすべてを取り去ることは不可能だった。
一部はもうすでに内臓が壊死して持ったら崩れてしまったそうだ。

意識がもどったのは奇跡のようなものだった。
的確な麻酔のスタッフと、執刀医の神業、見ず知らずの多くの人からの献血
支えてくれた家族や医療スタッフ
それらがあって初めて、僕の手術は行なうことが出来た。
行なうことで、喪うはずだった命をもう一度
少しだけでも繋ぐことが出来た。

腹の傷は大きく、弧を描くようにつけられた。
取り除かれた内臓と腫瘍は2kgはあったそうだ。
手術前に言われた通り、抵抗力の無さと免疫力がないため
しっかり感染症を起こし、抗生剤の飲み薬も効かないために
せっかく縫い止めた医療用のホッチキス(?)を全部取って、開きっぱなしにされ
広がった傷は、大型の獣につけられた爪痕のようだ。
それを見るたび、最大の努力を惜しまず頑張ってくれた医療スタッフと
支え続け、沢山泣かせてしまった姉や友を、
僕は墓場まで忘れない事だろう。
おまけに肺血栓も出来、
重度の貧血も深刻で、輸血はしばらく続けられることとなった。

まさに満身創痍。

上げ膳据え膳の入院生活は、ひと月以上に及んだが
医療でできることはもう無く、あとは自分の体力と時間だけになったので
退院を願い出た。

それからまったく萎えてしまった足を鍛えるため、
毎日少しずつ歩行練習をはじめる。
今月のはじめくらいまで、椅子に座ることすら苦痛だったのが
ようやくここにも来られるように。

あの絶望的な痛みが失われたせいで、今はすっかり落ち着いています。

入院中、のぞき込んだ鏡に映っていた己の顔を見て愕然としました。
痛みはこれだけ人相を変えてしまうのか。
苦痛は人間の尊厳すら奪うものだと、新めて考えます。

僕の残った腫瘍はまたいつ悪性化するかわかりません。
そうなるともう手術すら不可能になるでしょう。
でもそれまでは、今少し時間がもらえました。

僕にはまだやることが残っているようですねw

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