SSブログ

リヴリー小説 中編 『太陽のカケラ』 (後篇) [創作]

 『太陽のカケラ』 (前篇)より続き




「今日は飛ぶ練習をしようっ!」

イェルクッシェくんが高い木の上で胸を張りました。

「ジャス・ド・クッシェくん、おいでおいで。」

みんながお母さんだね、と言う事で
彼らは頭を寄せて白いひよこにそれぞれの名前を与える事にしました。

体はまだ小さくても、真白い鳥のジャス・ド・クッシェくんは、羽をもうぱたぱたし始めて
武彦さんがそろそろ飛ぶ練習を始める頃かもしれませんね、と言ったのは
タマゴが孵ってからそろそろひと月も経とうという頃でした。
「まだ小さいのに大丈夫かなぁ」と心配顔のノドくんママを木の下に待機させて、
イェルクッシェくんは自分のお腹に、慣れた手つきで丈夫な草のツルをぎゅっと結びました。
ツルの端の片方は、頭の上の枝に結び付けると
上手に羽ばたきながらぴょんぴょんと木に登って来たジャス・ド・クッシェくんに
うんうんと、自信たっぷりに頷いて見せました。

「大丈夫だよ?男の子はいっぱい修行すれば出来ない事なんてないんだ。
もし飛べなくても、下のノドくんがしっかり受け止めてくれるから、安心してね?
羽に力を込めて、僕の後についておいでっ!それええっ!!!」
イェルクッシェくんは頭の上にきっちりと両腕をそろえて、しゅやや~~んっ!と飛び降りました。
ツルはぴーんと伸びて、イェルクッシェくんは小さな振り子のように行ったり来たりしています。
それに負けじと、ジャス・ド・クッシェくんは思いっきり下のノドくんめがけて飛び立ちました。
一生懸命羽ばたくと、風がふわりと羽をもちあげました。

ノドくんは上を見上げ、両手を広げて木の下をばたばた走りまわっていましたが、
自分の頭上でこの小さな鳥さんが
立派に羽ばたいているのに手をぱちぱちと叩き、飛びあがって歓びました。
「すごいっ!飛んでる!飛んでいるよ!」
イェルクッシェくんもまだ振り子のようにゆらゆらしながら、手を叩きました。
「やったあっ!!かっこいいなぁ!」
あんまり体をよじって喜んだものですから、ツルが巻きついて逆さになってしまいました。
「きゅうう。・・ノドくん・・・おろして・・。」
ノドくんは慌てて巻きついたツルをはずして、イェルクッシェくんを救いだしました。
その頭上ではジャス・ド・クッシェくんがくるくると嬉しそうに翼に風を受けて飛んでいました。

いっぱい遊んで、いっぱい飛んで、
にこにこ笑いあって、楽しくくたくたに疲れながら
ノドくんとジャス・ド・クッシェくんは武彦さんの所に帰ってきました。
興奮したノドくんの、ジャス・ド・クッシェくんがいかに上手に飛ぶ事が出来たかを聞きながら
武彦さんは、そろそろジャス・ド・クッシェくんを
仲間の所に戻さなきゃいけない頃なのかもしれないな、と思いました。
いなくなった後、ノドくんが寂しがるだろうなぁとちょっぴり哀しくなって、
それでもにこにことジャス・ド・クッシェくんと、ノドくんの頭をいい子、いい子と撫でました。
2匹は心地よく疲れて、寄り添いながらぐっすりと眠ってしまいました。

それから数日後。
リヴリーアイランドに時ならぬ雪が降り始めました。

ノドくんもイェルクッシェくんも大喜びで雪だるまを作ったり、雪合戦をしたり
毎日元気に遊んでいましたが、流石に1週間も雪が続くとそろそろお陽さまが恋しくなってきました。
雪は弱まるどころか、ますます激しさを増し、今日は吹雪のように視界を遮っています。
ノドくんとイェルクッシェくんとジャスミンさんは真ん中にジャス・ド・クッシェくんを挟んで
窓の外を恨めしそうに見ていました。
「きっとニンゲンの世界で恐竜がいなくなる前も、こんな感じだったのかしら・・」
ジャスミンさんはぽつりとつぶやきました。
「恐竜はかっこいいよねぇ!僕、恐竜といっぱい遊びたかったなぁ!」
イェルクッシェくんは、ぱかっぱかっと恐竜の上に乗っているように走り回りました。
「・・・・僕たちもいなくなっちゃわない・・?」
ノドくんは心細そうにジャスミンさんを見つめました。
ジャスミンさんはにっこり笑いました。
「大丈夫。私たちは忘れ去られない限り生きてゆけるのだもの。」
「そうだね。でもこんなに終わらない冬が続くと、カケラでもお陽さまが欲しいね。」
ノドくんはほっとしたように、ジャス・ド・クッシェくんの頭をいい子いい子と撫でました。
ジャス・ド・クッシェくんは真剣なまなざしで、窓の外の雪を見つめていました。

翌日まだ暗いうちにジャス・ド・クッシェくんは外に出ました。
振り返る家は何だかとても暖かくて、涙が出そうになりました。
決意を込めた瞳でもう一度空を見あげました。
空からは大きな雪が降り続いています。
『僕が、とってくる。』
『太陽のカケラ、きっと持ってくる。』
『ノドくん、イェルクッシェくん、ジャスミンさん、武彦さん。
僕はみんないなくなっちゃうのいやだ。』
ようやく空が明るくなってきた時、ジャス・ド・クッシェくんは大きく息をすると
一直線に太陽に向かって飛び立ちました。
冷たい雪が容赦なく羽を濡らし、重く凍らせます。
浅く息をする胸の奥まで、鋭い氷のトゲが刺さるようです。
それでも重い雲を抜けてジャス・ド・クッシェくんは羽ばたき続けます。
『太陽のカケラをっ!きっと・・きっと…』
雲をぬけて太陽がきらりと眼をうっても、羽に感覚が無くなっても
彼は太陽を目指し真っすぐにひたすら昇ってゆきます。
もう頭の中は、たったひとつ、太陽のカケラをとって来ることだけしかありませんでした。
『もう少し…もう少し…・。』

やがて輝くひとつの光が、石つぶてのように空から落ちてゆきました。
薄い空気を切り裂き、厚い雲を突き抜け
雪の大地に光は吸い込まれてゆきました。

そこを中心にまあるく雪が解けだしました。
雪は小川となり、雪の下に閉じ込められていた緑がゆっくりと眼をさましてゆきます。
あれほど降り続いた雪はすでにあがり、やわらかな春の光が辺りを照らし
風も思わず微笑みたくなる心地よさで、木々の葉を揺らして森を吹き抜けました。
冬は去りました。
季節はまた動き始めたのです。

その日、なんとも暖かくて、ノドくんは久しぶりに元気に目覚めました。
ノドくんはいつものようにジャス・ド・クッシェくんを呼びました。
「おはよう!今日はなんだかわくわくするねっ!」
いつもは直ぐにぴょこりとお顔が出てくるのに、なんだかがらんとしています。
「ジャス・ド・クッシェくん?あれ?どこ?」
ノドくんはお部屋中探しましたがどこにもいません。
「武彦さんっ!ジャス・ド・クッシェくんがどこにもいないよぉ!」
泣き顔のノドくんに武彦さんは声に詰まりました。
「昨日は何も言っていなかったの?」
ノドくんは大きな涙をぽろぽろ流しながら、コクコクと頷きました。
「ノドくん。よく聞きなさい。
ここは天敵もいないし、危険な事もなにもない。
ここにいないという事は、
ジャス・ド・クッシェくんが自分の意思で出て行ったという事だと思う。
まだよくお話しは出来なかったけれど、
彼はとてもノドくんの事も、イェルクッシェくんの事も、ジャスミンさんの事も大好きだった。
それは解っているね?」
ノドくんは大きな眼を見開いたまままたコクコクと頷きました。
その度に涙がぽろぽろとこぼれて落ちました。

「僕らはジャス・ド・クッシェくんが何の鳥でどうしてあそこにいたのか、
結局解らなかったね?
きっと彼は何かすべき事があったのかもしれない。
でも・・ノドくんたちのこと大好きだったから、今日まで一緒にいてくれたのかもしれないね・・。」
ノドくんは、武彦さんの手に頭を押し付けて、きゅううっと泣くのを我慢しているようでした。
「うん・・。そうだね。そうかもしれないね・・。」
武彦さんは優しくノドくんを撫でました。
「ノドくんは、これ以上無いくらい良いお母さんで、お兄さんで、お友達でしたよ。
それはジャス・ド・クッシェくんが一番わかっているはずです。」
「うん・・うん・・・。」
ノドくんの涙はしばらく止まりませんでした。



さて、小さなジャス・ド・クッシェくんは死んでしまったのでしょうか。
彼の落ちた場所に行ってみましょう。
ほら、まだそこだけ明るく輝いていますでしょう?

おやおや、彼に気づいたのは僕たちだけで無いようです。
森の奥からいくつもの輝く鳥たちが集まって来ています。
長い尾はまるで炎のように辺りを明るく染めています。
その中心・・ひと際金色の明るく輝く鳥がゆっくり身を起こしました。
「僕は・・・」
「お疲れさま。おかえりなさい。」
「お陽さま、連れて来られたね。ここはもう大丈夫。」
「さあ、ゆこう。僕らの故郷へ。」
白い小さな羽はもうすでに無く、大きな金色の翼に変わっています。
理知的な意思を持った大きな瞳、長く煌めく尾・・。
「君はもうりっぱな僕らの仲間だ。来るべき日のために共にゆこう。」

ジャス・ド・クッシェくんと呼ばれた小さな鳥は
大きく羽ばたくと遠くの懐かしい家の方向を見つめました。
「ありがとう・・。僕の家族。」
輝く鳥はそのまま森の奥へ仲間の鳥たちと消えてゆきました。



僕もその鳥の種類は解りません。
ただ昔からの言い伝えに出てくる『フェニックス(不死鳥)』にも『火の鳥』にも似ているような気がします。
『来るべき日』に彼らがどのような役割を持っているのかも、僕には解りませんが
きっとそれもまたいつかのお話しになるかもしれません。



nice!(12)  コメント(6)  トラックバック(0) 
共通テーマ:LivlyIsland

nice! 12

コメント 6

xephon

iノド君やジャスミンさん、それにイェルクッシェが僕らが知らない間にあちこちでかけている事は知っていましたが、つくづく不思議な存在と縁がある子たちですねw

でもきっと彼らにはそれは特別なことではなくて日常なのでしょう。
僕たちにそういった世界と引き合わせてくれる彼らをありがたく思います。

僕には聞かせてくれなかったのにtakehikoさんには話したのかぁ・・・。
きっとイェルクッシェの事だから、勝手に僕は知っていると思い込んだな。
むぉ~んっ!

by xephon (2011-04-25 19:46) 

takehiko

>xephonさん

読んでくださって感謝です。

ノドくんとイェルクッシェくんとジャスミンさんたちは
毎日が冒険で、毎日が勉強で、
毎日少しずつ心も成長しているのかもしれません。

僕ら人間が大人となって
『生きやすく世を渡ってゆくすべ』を身につけるのとは違い
彼らの眼に映る世界は
どこまでも純粋で、どこまでも真っすぐで
だからこそ哀しい事も、嬉しい事も等しく心の栄養として、
また元気に明日へと駆けてゆく事が出来るのかもしれません。

今回は僕も少々関わってしまいましたが
ノドくんのお話しはどうも飛び飛びで、頭をひねることばかりです。
ようやくご報告出来て、僕もホッとしました^^
by takehiko (2011-04-25 23:18) 

シラスドン

こんばんは。先日はブログにきていただきありがとうございました(^ ^)

なんだか不思議なお話ですね。元気が出るような、あたたかいような、それでいて少し悲しいような…。

楽しく読ませていただきました(^ ^)ありがとうございました。
by シラスドン (2011-04-26 22:31) 

takehiko

>シラスドン さん

よく来て下さいました。
少しでも楽しんで頂けたのでしたら、
にわかモノ書きの冥利に尽きるというもの^^

気合いでノドくんが連れて来てくれたトリさんは
一番小さな白い鳥でしたw

あんまり喜んでいるものですから、
この鳥さんをモデルにひとつ、お話しを紡ぎだしてみました。

シラスドン さんの心楽しくなるブログに
ついつい時間を忘れてお邪魔してしまいました。
またお邪魔させてさせてください^^
by takehiko (2011-04-27 14:22) 

LAYLY

なんとも不思議なお話ですね^^
きっとノドくんとひよこちゃんの切ないお別れがあるのだろうと思っていましたが…。
まったく予想外の展開に、びっくりというか、さすがというか、takehikoさんはほんと予測不可能ですね!(*^^*)…褒めてますからね?

この小さい白いひよこちゃんは春を連れてくる役割だったのね、と最初は単純に思ったのですが、どうやらそんない単純なものではなさそうですねぇ…。

地球温暖化によって、夏は極暑、冬は極寒、普段雪がほとんど降らない私の居住地でも、今年は記録的な大雪が降りました。その余波がリヴリーアイランドにも及んだのでしょうか。大雪に呑まれそうになったアイランドを救ってくれたひよこちゃん、、、
そう考えると、もっともっと大きな役割を持っているのかもしれませんね^^

しかし、このお話は少なくとも今から3年前に書かれているようなので、takehikoさんの先見の目には驚かされます!『来るべき日』って何だろうと考えると、かなり怖いですが…^^;

ひよこちゃんが姿を消して悲しむノドくんを優しく慰める武彦さんにもじーんときました(;_;)

このお話はかなり深い、ですね。。。。

by LAYLY (2014-11-24 14:38) 

takehiko

>LAYLYさま

最後までお付き合い頂いてありがとうございました^^

さらっと読んでくださって、楽しいリヴリーたちのお話ととって下さる方も
レイリーさまのようにいろいろ思いめぐらしていただける方も
作者としては嬉しくてどきどきします^^

ここで読んで下さる方のほとんどは、
下地としてリヴリーの世界を御存じでらっしゃいますので
その世界観を壊してしまわないようには気をつけますが
あとは読んで下さった方の想像力にお任せしてしまっています。
ちょっとずるいですねw

今回はちゃっかり僕も登場させていただきました。
偉そうなことを言っていますが、
実情はいつもお片づけを怠けて、ノドくんにお尻をたたかれてつつ
しぶしぶ身の周りだけをお掃除している武彦だったりします。
by takehiko (2014-11-24 15:23) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。